技能実習制度の見直しについて
以前から問題視されてきた技能実習制度ですが、今後の動向として廃止される可能性が出てきました。令和4年12月14日から開催されている「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の中間報告として政府に提出された報告書の中で、技能実習制度の廃止についての言及があったためです。
有識者会議で検討される方向性を「技能実習生制度を廃止し、人材確保と人材育成を目的とする新たな制度の創設を検討するべき」としています。人材確保は特定技能寄りの目的、人材育成は技能実習寄りの目的なため、新制度は特定技能と技能実習を合体させたような制度というイメージです。 技能実習制度と廃止後の新制度をわかりやすく比較した表が下記の通りです。
有識者会議が示した制度の変更点
現行の技能実習制度 | 代替の新制度 | |
---|---|---|
趣旨 | 人材育成を通じた国際貢献 | 労働力確保と人材育成 |
転職 | 原則不可 | 一定の制限内で可能に |
日本語能力 | 定めなし | 就労開始前に一定の条件検討 |
職種 | 87職種に細分化 | 現在12分野の特定技能と一致 |
監督体制 | 監督不十分な事例が社会問題に | 不適切な監理団体を排除 |
受け入れ上限 | なし | 特定技能と合わせた上限 |
技能実習制度の廃止は確定事項ではありませんが、2023年秋の有識者会議にて最終報告を政府に提出し、早ければ2024年の通常国会に関連法案が提出される可能性があります。
新制度の特徴
新制度となることに伴い、特徴を紹介いたします。
- 転職
技能実習の大きなメリットの一つが、転職がないため3~5年間人手を確保できることでした。しかし新制度ではこれが変更される可能性が高く、人材育成や雇用者の採用費用負担の観点から一定期間はひとつの職場で働き、その後転職ができるような仕組みが検討されています。そのため、「給料が安い」や「労働環境が悪い」と実習生が感じると転職される可能性があります。
なお、〈中間報告書案(概要)〉では転職ではなく”転籍”と表記されているので同じ職種でないと会社が変われない可能性が高いです。 - 職種
現在も技能実習生が特定技能へ移行すると、同じ職場で更に5年働けますがそれは技能実習と同じ業種が特定技能である場合に限ります。
新制度では、職種を特定技能の12職種に合わせる案がでており、一致すれば技術的に習熟した実習生が引き続き働けるため雇用側にとっても大きなメリットといえます。 - 日本語能力
新制度では「一定水準の日本語能力」が求められます。
実際、日本語力が高い実習生が在籍していた企業では定期的に会社負担で日本語教室を開いたり、日本語能力試験N2に合格した人材には手当などのインセンティブを与えたりと、組織的に外国人の日本語レベル向上に取り組まれています。
現行の技能実習制度では、日本に入国直後は日本語をほとんど話せないというケースが比較的高い割合でありました。そのため、この点が改善されるのは新制度のメリットといえるでしょう。
技能実習制度廃止後の新制度において一番の変化と言えるのは転職が可能になったことではないでしょうか。
今までは約3~5年間、必ず自社で働いてもらえたのが転職制限が緩和されたことにより、人気の地域や賃金比較によって特定の企業に人が集まる可能性が大いにあります。そのため、実習生を受け入れている企業は新制度の動向を見ながら人手確保を考える必要がありそうです。
また、今回の新制度において”外国人保護”の意味合いが強いように感じます。
転職制限緩和のこともあり、受け入れ企業側にとっては使い勝手があまりよくない制度となるかもしれません。
しかし、現在外国人の力がなければ経営が難しい企業や職種は今後も増えていくと考えられます。
海外から来てくれる外国人に「日本に来てよかった」と思ってもらえるような努力をしていき、新たな制度とうまく付き合って労働力の確保・維持を行うことが重要です。